山奥の夜道で出会った女

山奥の夜道で出会った女

高校3年の春休みの出来事。

卒業式の日、隣のクラスのあまり話しをした事が無いちょっと地味目の感じの女子のグループが、俺たちのところへやってきた。

理由は、そのグループの中の1人のKさんが友人のNの事を好きだったらしく、最後の思い出に
Nとどこかへ遊びに連れて行ってほしいという内容だった。

Kさんはそこそこ可愛いのだが、凄く引っ込み思案でクラスの男子とも殆ど話したことが無く、 今回も友達に説得されてここにやってきたらしい。

丁度Nはそのときいなかったのだが、俺たちは何か面白そうだという事で勝手に了解し、予定を色々決めてドライブへ行く事にした。

当日、事情を全く知らせていないNには、隣のクラスの女子のグループと遊びに行く事になったから来いとだけつたえ、午前中に集合した。

メンバーは男子がN、Sと俺の3人、女子がKさんとその付き添いできたMさんとYさんの3人、本当は もっと大人数になるはずだったのだが、当日そんなにたくさん車の都合が付かないという事で、この6人になった。

6人でSが借りてきたワゴン車に乗り出発、俺たちは気を利かせてNとKさんを一番後ろの席に座らせたのだが、Nは元々口数が少ないやつなうえに、Kさんも引っ込み思案で凄く大人しいので互い黙ったまま特に何の話もしない。

仕方が無いので俺たちが色々と話題を振ったりしていたのだが、Nはまるで状況に気付こうとしないしKさんも全く積極性が無い、途中近くの観光地へ寄ったりカラオケに行ったりもしたのだが、何一つ状況が改善せず、そろそろ日が暮れる時間になってしまった。

このままでは何のためにセッティングしたのかわからなくなると考えた俺たちは、MさんとYさんも呼んで話し合い、どこか肝試しに行こうという話にまとまった。

なんか凄く安直な考えなのだが他にいい考えも思いつかず、今更Nに真相を伝えるのも間が悪すぎな気がして言い出せず、結局これくらいしか思いつかなかったわけだが。

ただし、ビビりな俺たちに本当の心霊スポットなど行く勇気があるわけもなく、何の曰くもない少し山奥にある廃村へ行く事にした。

計画がまとまり車が出発するといい感じに日が暮れだした。

ひとまず途中のファミレスで早めの夕飯を食べ、相変わらず何も察しないNと、MさんYさんとばかり話しているKさんにいい加減ちょっとイラっとしながらも、俺たちは目的地の廃村へと向かう事にした。

山道へ入ってから暫らくはちゃんと整備された県道だったのだが、途中脇道へ逸れ車がすれ違うことも出来ないような細い道へと入ると、だんだんと雰囲気も出てきた。

この頃になるとNも何かしら察したのか、それとも単に気まぐれか、ポツポツとKさんと話をするようになてきていて、少し状況が改善され始めた。

15分くらい細い道を進んだ頃だろうか、そろそろ廃村に着くかつかないかというくらいのときに、前方になにか人影のような物が見えてきた。

近付いてみるとそれは女の人だった。

道の真ん中を3月にしては薄着の女の人がフラフラと歩いている。

「こんな山奥に女の人が1人?」状況が明らかにおかしい。

目的地の廃村はもう何十年も前に人が住まなくなっていたので、殆どの建物が崩れており、今更人が住むという状況は明らかに不自然だ。

女の人は俺たちの車のヘッドライトに照らされても、相変わらずフラフラと前を歩いていてこちらを気にする様子すらない、そこが更に不気味だ。

俺たちは「あの人なんか変じゃね…」とか「絶対普通の人じゃないだろ…」とか話していたが、ぶっちゃけ怖くてそれ以上なんのアクションも取れずにいた。

そのうち、KさんMさんYさん達が「なんか気落ち悪いよ…引き返そう」と言ってきたのだが、ここは道が細過ぎて廃村まで行かないと折り返すことすら出来ない、バックで戻ろうにも距離があり過ぎる上に、ガードレールすらない山道をずっとバックで戻るのは流石に危険すぎる。

仕方が無く前方を歩く女の人のあとを、少し距離を置いてのろのろと進んでいると、先の方に
Uターンできそうなくらいの開けた場所が見えてきた。

ホッとした俺は「あそこまで行けば引き返せそうだ」と言った途端、道の途中で前方を歩いていた女の人が立ち止まってしまった。

開けた場所まではあと10mあるかないかくらい、ほんとにすぐそこなのだが、女の人が道の真ん中で立ち止まってしまっているので、それ以上先に進む事ができない。

流石にたまりかねたSが何度もクラクションを鳴らしたのだが、女の人はまるで反応をせず俯いたまま全く動こうとしない。

するとNが「俺ちょっと文句言ってくる」と言って車から降りて行った。

心配なので俺も車から降りて様子を見ていると、Nは女の人に近付き「あのーほんの少しの間でいいので道の端に寄っていただけませんか?」と丁寧に話していたのだが、女の人はまるで何の反応もしない。

俺も近くまで行って「俺たちこの先でUターンして帰るんで、先に進むか避けるかしてもらえませんか?」と言ったのだが、相変わらず何の反応も無く俯いたまま道の真ん中に立っている。

Nが「あのちょっと…」と女の人の肩をたたいた時、突然女の人の様子が豹変した。

いきなり物凄い勢いでこちらに振り返ると、口元に薄笑いを浮かべてNに掴みかかり、いきなり首を絞め始めた。

突然の事にNも俺も反応できず、Nはそのまま地面に倒され馬乗りで首を絞められている。

慌てて俺が女の人の腕を掴んで引き剥がそうとしたのだが、腕を掴んだ途端ぎょっとした。

女の人の腕にまるで弾力が無い、何か粘土のようなものを掴んでいるような感触だ。

予想外の出来事に思わず手を離してしまった俺は、あらためて腕を掴みなおし「おいやめろ!」と言いながら引き剥がそうとしたのだが、女と思えないくらい物凄い力でとても引き剥がせそうに無い。

そのうち様子が変だと気付いたSも降りてきて、2人で引き剥がそうとしたのだが2人がかりでも微動だにしない。

Nは段々と顔が紫色になってきていいかげんヤバそうだ。

俺はもう形振り構っていられないと、女の人に蹴りを入れたり近くにあった少し大きめの石を
投げつけた木切れで殴ったりしたのだが、それでもまるで動じる様子すらない。

そんな事をしていると、女の子3人も車から降りてきた。

そして、Nの様子を見たKさんが突然早足で近付いてくると、物凄い大声でとんでもない事を言い出した。

「やめろ!この鼻くそボクロ!」

と。

たしかにこの首を絞めている女の鼻の下というか唇の斜め上くらいに小さなホクロがある、鼻くそというのはちょっと位置的に微妙だが…

そして、何よりさっきまで物凄い大人しく控え目だったKさんの豹変も相まって、不謹慎だが俺とSはちょっと吹いてしまった。

すると、Nの首を絞めていた女が立ち上がり、物凄い怒りの表情を浮かべてKさんの方を向くと
「はぁ?」と言いながら早足で近付きそこからKさんと女が物凄い罵りあいを始めた…

とりあえず開放されて咳き込んでいるNを俺とSが助け起し、YさんとMさんの所まで行って
「…Kさんってなんか凄すぎね?」というと、2人ともKさんのこんな姿はかなり意外だったようで、Kのあんな所は今まで見た事がないと言う。

相変わらずKさんと女は殆ど絶叫に近いような罵りあいの口喧嘩をしている。

暫らくこの罵りあいを呆然とみていたのだが、どれくらい経った頃だろうか、恐らく女の方がKさんの勢いに根負けしたんだと思う。

突然俺たちのほうを向くとKさんを指差しながら「こんなブスと付き合ってるとかお前らバカじゃねーの!死ね!」と言う捨て台詞を残し、道の先へと早足で消えていった…

Kさんの方はというと、暫らく女の方を睨みつけていたが、そのうちしゃがんで泣き出してしまった。

俺たちはNに「Kさんに助けてもらったんだから」とNにKさんを慰めさせ、車を広場でUターンさせると帰る事にした。

その後。

結局あの夜道でであった女が人間だったのか、それとも「それ以外」だったのか、それは今でも解らない。あの後またあの女が出てきたとか、当時のメンバー何かしらの不信な出来事があったと言うことも、俺の知る限り何も無い。

4月になり、俺たちは進学で皆バラバラになったのだが、暫らくしてNからKさんと付き合いだしたというメールが届いた。

変わったことといえばそれくらいだろう。

スポンサーリンク