人間の怖さ 追いかけてくる爪を食べる女
喫茶店で、時間をつぶしていたときのこと。
隣のテーブルで音がした。
カリカリカリというような音だ。
はじめのうちは、特に気にせず本を読んでいた。
だが、30分経過してもその音は消えない。
さすがに、気になって音のする方を向いた。
そして、驚いた。
爪を食べてているのだ。
爪を少しかじっているということではない。
尋常じゃない量を食べているのだ。
口の空いた1リットルの牛乳パックに、はちきれんばかりの爪が入っている。
切った状態の爪ではない。
生爪を剥がしたような状態の物だ。
それを無心に食べているのは、30歳くらいの普通の女性。
服装などに、おかしいところはない。
女性の前には、コーヒーらしきカップも置いてある。
何より驚いたのは、じっとこちらの首のあたりを見ているのだ。
怖いというよりも驚きの方が勝ってしまい、しばらく凝視してしまっていた。
そのうちだんだんと、恐怖が湧いてきて慌てて目をそらした。
いったい、なぜ爪なんかをたべているというのだ・・・。
そして、なんで睨まれているんだ?
そんなことを考えていると自分の身に危険を感じてしまい、早々に喫茶店を出ることにした。
喫茶店を出て交差点を渡り、駅まで着いた。
その辺りは人通りも多く、安心していたのだが。
あの女性がいる。
駅の改札に。
こちらを待つように。
幸いなことにここは人も多いし、見つかっても変な事はされないはずだ。
そう思いながらも、できるだけ女性を避けつつ改札を通り、ホームについた。
ホームにその女性の姿はなく、電車が到着した。
ホッとして席に座った瞬間、女性が来た。
駆け込みながら電車に乗ってきたのだ。
さすがにこっちは、パニック状態。
席に座ったまま、どうにかしなければ・・・と考えていると、その女性が目の前に立ち、つり革を握った。
凍りつく・・・
女は何も言わずに、牛乳パックを取り出すと、またもや爪を食べ始めた。
女は、何もしてこない。
ただただ爪を食べるだけ。
自分は、目的地の2つ前の駅で降りた。
意を決して、女性を軽く押しのけるように、強引に降りたのだ。
女性は追ってくることはなかった。
これは未だに謎だ。