お母さんの不思議な癖 幽霊が味覚に変化を与える
うちのオカンは、幼い頃からいろいろな体験をしてきたらしい。
今回の話は、正月に帰省したときに初めて聞いたこと。
俺がまだ小さい頃から、オカンは食べ物を口に運ぶときに、周りをキョロキョロ見渡していた。
それを、俺はオカンの癖だと思っていたんだけど、どうやら違うらしい。
正月に帰省したときにも、食事中にキョロキョロしていたから、「食べ物こぼすぞ」と、注意したんだ。
そしたら、
「いや、念のためね・・・」
という、意味不明な返事をされた。
食事に、毒が盛ってあるわけでもないだろうに。
詳しく聞いてみると、オカンが大学生のころからのことらしい。
その日は大学の講義が長引き、遅めの夕食を食べていたのだとか。
食事を作るのが面倒で、冷奴(ひややっこ)を食べてたらしいんだ。
フワフワとろとろの食感を期待して口に運ぶと、違和感を覚えた。
なんだか、鉄臭い。
当時から親父と付き合っていたオカン。
そのときも一緒に食事をしていたらしいのだが、親父が豆腐を食べても特に異常はないらしい。
最初は、歯茎から血でも出ているのかと思い、手鏡で口の中を確認したそうだ。
すると、鏡越しの視界の隅に一瞬人影が過った。
振り向いてみると、部屋の隅に知らない人がうずくまっていた。
また、別のときのこと。
おかんが、友人に誘われて飲みに行った。
場所は、居酒屋というか、1階がバーになっていて、2階から普通のマンションみたいな作りになっていた。
甘党のおかんは、甘いカクテルを飲んでいた。
でも、そのカクテルが妙に酸っぱく感じた。
一緒にいた友人がそれを飲んでも、「甘すぎて飲めない」と言われ、違和感を感じていたらしい。
薄ら寒さを感じ、店内をキョロキョロと見回してみると、バーテンのオッサンが数ヶ月前に3階で腐乱死体が見つかったのだと、笑いながら教えてくれたそうだ。
で、話は今回帰省したときのことに戻る。
俺が帰ったことに気を良くし、酒をたくさん飲んだオカンは、突然プリンが食べたいと言い出した。
仕方ねえな。
「いい歳して、そんなに酔っ払うなよ」と、思いながらも、俺が立ち上がると、おかんも一緒に行くとか言い出した。
まあ、年に2回程度しか帰らないので、これも親孝行かと思い、二人でコンビニまで歩いた。
お目当てのプリンを無事購入し、「さあ、帰ろう」といったとき、オカンはプリンをその場で食べ始めた。
大人げないな。
どんだけプリンを食いたかったんだよ、と心の中で思いながらも俺は、
「ほら、さっさと帰るぞ。」
と促して、歩きだそうとした。
オカンは、口にスプーンをくわえたまま、プリンの容器をジッと眺めている。
例の癖が出たのかと思って黙っていたら、オカンは
「これ・・・茶碗蒸しじゃないよね??」
と、言う。
俺は、
「カラメルの入った茶碗蒸しは、聞いたことないな。」
と、笑いながら答えると、
「そうだよね・・・」
と、少し悲しそうな顔をした。
いちおう、一口食べてたが、普通のプリンだった。
オカンは、またキョロキョロと辺りを見回す。
「あ、これか。」
と、母が指差したので、その方向に目を向けてみると、コンビニの駐車場の片隅に菊の花束が置いてあった。
オカンは、3つ買ったうちのプリンの1つを
「これ、もらっていい?」
と、聞いてきた。
「いいけど、何だよ?」
意味が分からずに、少しイラっとして答えた俺に、
「子供・・・」
と、一言だけいうと、未開封のプリンを花束の置いてある横に並べた。
お供えを終えたオカンは、またプリンを食べ始め、
「んー!!美味しい!」
と、言いながら歩き出した。
帰り道、オカンに、
「さっきのは、なんだったんだ?」
と、聞いてみると、自分(オカン)の近くで人が亡くなっていると、食べ物の味が変わるんだというのだ。
酔っ払ってるときの話だから、真実なのかどうかは定かではないが、俺はオカンの変な癖を幼い頃からずっと見てきていたため、これに妙に納得してしまった。